防御率1.42の左腕が、なぜ戦力外?――「数字のギャップ」をほどくと見えてくる現実
昨季、44試合で防御率1.42。ヤクルトのブルペンで「中継ぎの柱」として結果を残した左腕・山本大貴投手が、戦力外通告を受けました。テレビでその瞬間を見た人ほど、「この成績でクビ?」という感情が先に立ったのではないでしょうか。
ただ、プロの編成は残酷なくらい“来季の設計図”で動きます。去年の成績が良くても、今年のコンディションや起用実績、そして「再現できるか」という評価が噛み合わなければ、決断が下ることがあります。
この記事では、山本投手の直近2年の数字を整理しながら、「防御率1.42→戦力外」というギャップが生まれた背景を、できるだけ具体的に解説します。さらに、家族とともに挑んだトライアウトで何を見せたのか(結果も含めて)まで、放送を見た人の頭の中をスッキリさせる形でまとめます。
まずは事実整理:2024年は「勝ちパの一角」、2025年は「登板減+数字悪化」
2024年:44試合・防御率1.42が示す“価値”
昨季(2024年)の山本投手は、リリーフとして理想的な要素をいくつも揃えていました。数字だけでなく、中継ぎにとって致命傷になりやすい「一発」を許していない点は、特に大きいです。被本塁打0は、ブルペンの計算を立てるうえで強烈な安心材料になります。
| 年度 | 試合 | 投球回 | 防御率 | 奪三振 | 四球 | 被本塁打 | 失点(自責) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2024 | 44 | 31回2/3 | 1.42 | 31 | 15 | 0 | 6(5) |
短い回を積み上げる中継ぎにとって、登板数が多い=信頼されていた証拠です。44試合は「便利屋」ではなく、勝ち筋の中で使える投手として評価されていたことを示します。ここまで整っていると、“なぜ手放すのか”が余計に気になります。
2025年:17登板・防御率5.17、そして「故障→離脱」の影
一方で今季(2025年)は、開幕戦で登板するなどスタートは順調でした。しかし、その後に故障もあり、一軍での登板は17試合にとどまります。防御率も5.17まで悪化しました。
| 年度 | 試合 | 投球回 | 防御率 | 被安打 | 被本塁打 | 失点(自責) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025 | 17 | 15回2/3 | 5.17 | 19 | 1 | 12(9) |
投球回が15回2/3というのは、中継ぎとしては「ほぼ半シーズン消えた」に近い数字です。リリーフは年間を通した稼働が求められるポジションなので、“実戦での見せ場が少ないまま秋を迎える”こと自体が、評価の土台を薄くしてしまいます。
なぜ「防御率1.42の翌年」でも戦力外になり得るのか
理由①:中継ぎの成績は、良くも悪くも“少数の登板”で揺れる
防御率は分かりやすい指標ですが、中継ぎ投手の場合は特に「ブレ」が大きくなります。1回を投げて2失点すれば、その日の防御率は18.00になります。そんな登板が数回あるだけで、シーズンの見栄えは急変します。
2024年の山本投手は、31回2/3で自責点5。これは素晴らしい一方で、2025年は15回2/3で自責点9と、少ない投球回の中で失点が重なった形です。実力そのものが消えたというより、「良いときの形で投げられる状態」が続かなかった、と見るほうが現実に近いかもしれません。
理由②:編成は「来季の勝ち筋」に合わせて枠を動かす
戦力外は、必ずしも「去年の実績」の否定ではありません。球団は支配下枠の上限や、ドラフトでの補強、外国人枠、若手育成の計画など、複数の制約の中で“来季のパズル”を組み直します。
その中でリリーフ左腕は貴重ですが、需要は一枚岩ではありません。例えば、
- 終盤の左打者を確実に抑えるワンポイント性能
- 右にも強く、イニングまたぎもできる汎用性
- 連投に耐え、勝ち継投で固定できる安定稼働
同じ「左の中継ぎ」でも、求められるタイプが違えば、枠の優先順位も変わります。山本投手は変則フォームと変化球が武器の技巧派。球速インフレが進む今の環境では、「速い球で押せる投手」が優先される局面も増えています。
理由③:「故障明け」は、評価がゼロから作り直しになりやすい
放送でも触れられた通り、今季は故障がありました。ここがリリーフにとって厳しいポイントです。先発と違い、中継ぎは登板間隔が短く、状態の上下が目立ちやすい。復帰しても、
- 球のキレが戻るまで時間がかかる
- コントロールが甘くなり、痛打が増える
- 怖さが残り、強く腕が振れない
こうした“あるある”が起きやすい一方で、現場は待ってくれません。結果が出ない登板が続くと、「状態が戻っていない」という印象が先に立ち、起用が細くなります。登板が減る→感覚が作れない→さらに難しくなる、という悪循環に入ることもあります。
「変化球は今の方が全然いい」――山本大貴の武器と、評価が割れやすいポイント
武器:変則フォーム×スライダーで“見え方”を変える
山本投手の特徴は、変則的な腕の振りと、そこから繰り出す変化球です。打者は球速だけで打っているわけではありません。リリースの見え方、回転、角度、ボールの出どころがズレるだけで、体感はまるで別物になります。
だからこそ、本人の言葉が効いてきます。
「変化球は今の方が全然いい。絶対に見返す」
この発言は、ただの気合ではなく「投げられている球の感触がある」という意味でもあります。技巧派は特に、球の質(キレ)と制球のバランスが噛み合うと、一気に抑え込める。逆に、どちらかが欠けると、見極められて四球が増えたり、甘いところを痛打されたりします。
評価が割れるポイント:現代野球は「奪三振 or 強い球」に寄っている
今のプロ野球は、打者のスイングが強く、投手は“打たせて取る”だけだと怖い場面が増えています。強い直球で押す、あるいは三振で止める――この要素が分かりやすい評価基準になりやすいのは事実です。
技巧派が生きるには、
- ストライク先行でカウントを作れる
- 変化球をストライクにもボールにも投げ分けられる
- 芯を外す“ゴロ”を増やせる
といった条件がより重要になります。山本投手はまさにこの路線で勝負する投手であり、だからこそ「状態が良い」ときは抜群にハマり、状態が落ちると厳しく見えやすい――そんなタイプと言えます。
トライアウト当日:最速143キロ、1安打を許すもスライダーで連続K
内容は「安打→K→K」――武器で押し切った2打席目以降
家族とともに挑んだ合同トライアウト。山本投手の当日の最速は143キロでした。シート打撃の内容は、最初の打者に142キロの直球を打たれて左前安打を許しましたが、その後は128キロのスライダーで見逃し三振、さらに外角スライダーで空振り三振。変化球で“仕留めた”形です。
短い場面で球団が見たいのは、豪速球かどうかだけではありません。特に中継ぎの場合は、
- 勝負球があるか(この球なら三振が取れるか)
- カウントを作れるか(四球で崩れないか)
- フォームの再現性が高いか(毎球ブレないか)
が重要になります。トライアウトで「スライダーで2者連続K」を見せたのは、少なくとも武器が生きる状態に近づいていることの証明になります。
それでも即決になりにくい理由:「枠」と「時期」と「役割」の壁
一方で、トライアウトは“良かったから即契約”になりにくい場でもあります。理由はシンプルで、各球団の補強には順番があるからです。
- まずはFAや外国人補強、現役ドラフト、ドラフト組の整理
- 次に、足りないピース(中継ぎ左腕など)を埋める
- 最後に、育成枠やキャンプのテスト要員として検討
山本投手の場合、前年の実績は十分でも、今季の離脱と防御率悪化があり、球団側は「来季いきなり勝ち継投で使えるか」を慎重に見るはずです。年末時点で去就が決まらないケースがあるのも、こうした“枠の整理待ち”が起きやすいからです。
家族の存在が突きつける「時間のリアル」――それでも挑む理由
支えてくれた妻、幼い子どもたち――「挑戦」が美談で終わらない背景
放送で胸を打つのは、家族の姿です。大学を中退してプロ生活を支えてきた妻、そして幼い子どもたち。生活と未来が、画面の中で具体的な重さとして伝わってきます。
戦力外は「明日から無職」という単純な話ではありませんが、プロ野球選手のキャリアは契約で成り立っています。次が決まらない期間は、精神的にも現実的にもきつい。だからこそ、山本投手の「見返す」という言葉は、夢だけでなく、家族の時間を守るための宣言でもあります。
「技巧派の逆襲」は起こり得る――鍵は“役割がハマる場所”
今のNPBで生き残る投手の条件は、以前より尖っています。球速、奪三振、強い球――分かりやすい強みを持つ投手が有利なのは確かです。
それでも、技巧派が不要になったわけではありません。むしろ、終盤の1点を守る場面では、「打たせてミスを起こさせない球」や「初見で打ちづらいフォーム」が効くことがあります。山本投手の変則フォームとスライダーは、まさにそこに刺さる武器です。
復帰の道は、支配下だけではありません。育成契約でまず状態を見せる、実戦の場を確保して評価を作り直す――選択肢はいくつもあります。大切なのは、武器が活きる役割に入り、そこで短い登板で結果を積むこと。リリーフの世界は厳しいですが、ハマったときの復活も早いのが特徴です。
まとめ:数字のギャップの正体は「登板減」「状態」「編成」――そして、武器はまだ残っている
防御率1.42の翌年に戦力外――この衝撃は、テレビを見た人ほど強かったはずです。けれど整理すると、ギャップの正体は主に3つです。
- 今季の登板数が少なかった(離脱があり、見せ場が減った)
- 短い投球回で失点が重なった(中継ぎの数字は揺れやすい)
- 来季の編成に合うかどうか(枠・役割・優先順位の問題)
そしてトライアウトでは、最初に安打を許しながらも、スライダーで連続三振を奪いました。本人が語った「変化球は今の方が全然いい」という手応えが、形として見えた瞬間でもあります。
「絶対に見返す」――その言葉が現実になるかは、状態の維持と、役割が噛み合う場所に入れるかにかかっています。放送を見て心が動いた人ほど、次に知りたいのは“続き”でしょう。もう一度、プロのマウンドで。家族の前で。山本大貴という投手が、数字だけでは語れない復活を見せる日を待ちたいところです。


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