情報やリソースが溢れている現在の社会で、結果に差を生む出すのは本人の意思と行動かもしれません。しかし、行動を促すためのやる気をどのように育むのか。
 
『どうやったら生徒やクラスのやる気を引き出せるのか?』
『やる気さえ出してくれたらうちの子も色々なことができるはずなのに』
 
多くの先生や保護者から上記に関する悩みを伺います。
 
では人の『やる気・動機付け』とはどのように引き上げて、維持することができるのか。
モチベーションまたは『やる気』は心理学では『動機付け』と表されることが多く、この動機付けは大きく分けると内発的動機付けと外的動機付けの2つに分類されます。
 
内発動機付けは『興味を持っているから行う』、『楽しい・好きだから取り組む』など自発的に取り組むこと、外的動機付けは外的報酬、例えば『あとでご褒美をもらえるからやっている』や他の人から頼まれた・要求されたから行うこと(『先生に言われたからやっている』など)を指しています。
 
これらの考え方をまとめた理論の一つとして多くの心理学者から支持されているのが、Deci氏とRyan氏が発表した『自己決定理論(Self-determination theory)』です。
 
今回は『自己決定理論』を噛み砕きながら、教育現場やお子さまとのやり取りの中でも活用できる方法を探っていきます。
 

『やる気がない』状態から『好きだからやる』までの動機付けの6段階:

 
自己決定理論が発表されるまでは外的動機と内発動機は対立しているように思われることが多くありました。
 
しかし、自己決定理論ではこれらは対立している2つの項目ではなく、自己決定の度合いによって連続性を持って表せるものだと定義されています。
 
自己決定が全くなく、モチベーションも全くない無動機づけの段階から自己決定が最大となり、内発動機付け(楽しい・興味があるからやっている)という状態までを6段階で表しているのが下記の表となります。
 

人がスピーカーマイクで話す, ワクワク, 不安を乗り越える

 
上記で表されている『内在化』とは外部の要因と自分の関わり具合をどこまで自分の内側と一致することができているかを示しており、下記にてそれぞれの段階での動機付けのレベルを噛み砕いています。
 
段階①:無動機:活動に対して全く動機付けがされていない状態
 
段階②:外発的動機付け – 外的調整:報酬を得るため、罰を避けるため動機付けられている状況。外的要因によって行動が調整されている。
 
段階③:外発的動機付け – 取り入れ的調整:部分的に内在化が起こっており、明確な外的要因がなくても行動が見られる。ただ、目的は人から認められたい、自らの不安を下げたい、恥を避けたい(自己価値を守る)等で多少自己決定的な部分もあるが外的要因によって行動が調整されている。
 
段階④:外発的動機付け – 同一化的調整:行動に価値があると考え、自分が得られることが同一化している。自分のためになる、または将来のためになるなど個人的に重要だと考えているから行動している。
 
段階⑤:外発的動機付け – 統合的調整:自己決定の度合いが高まり、行動に対する同一化が進み、矛盾なく自分の価値観と一致しているため行動が行われている。何かのためではなく、自分にとって意味があるという状態であり、無理なく、自然体で行動することができている。
 
段階⑥:内発的動機付け – 内発的調整:完全に自己決定的な状況で行動自体が目的となっており、それに対して興味や楽しさなどの感情があるから自発的に行動している。
 
こちらの表から自己決定理論では外的要因は悪いもので内発的要因が正しい等の単純な構造ではなく、組み合わせによって段階が組まれていることが分かる。
 
では自発的に行動を続けるには何が必要なのか?
 

人がスピーカーマイクで話す, ワクワク, 不安を乗り越える

3つの欲求を満たすことが重要:

 
自己決定理論ではDeci氏とRyan氏は人が自発的に行動を続けるには下記の3つの欲求を満たすことが大事だとしている。
 
・自律性の欲求 (Autonomy)
・有能性の欲求 (Competence)
・関係性の欲求 (Relatedness)
 
自律性の欲求 (Autonomy):自ら行動を選択し、主体的に動きたいという欲求。他者に強制や要求されたのではなく、自ら始めて終わりも自ら決められること。
 
有能性の欲求 (Competence):自分はできる、能力がある感じることへの欲求。これを満たすために知識を増やしたり、新しいスキルを身につけるために練習に励んだり、成長を促すための行動する。
 
関係性の欲求 (Relatedness):他人と互いに尊重しあえる関係を作りたいという欲求。深い友情や親密な関係を築きたい、集団に属したい、社会に貢献したいという欲求が含まれる。
 
この3つの欲求が満たすことができれば人は継続して自発的な行動を取り続けることができる。
 

自己決定理論を活用した教育:

 
ここまで自己決定理論を噛み砕いてきたが、それでは教育の中で生徒や子どものやる気をあげるにどのように活用することができるのか。
 
一つは、生徒や子どもが取り組む行動が上記の3つの欲求を満たす形を作ることが挙げられる。
 
例えば、自律性の欲求を満たすために授業の中で生徒自身が学習課題や学習方法を選ぶ場面を組み込むことも可能である。一つの課題に対して、グループディスカッションで授業を進めたいか、各自でリサーチをする形を取りたいか生徒に決断させる。授業の目的は一つ決まっているかもしれないが、その目的にたどり着くまでの道のりは一つに限る必要はない。
 
有能性の欲求を満たすためには、新しいスキルが身についている等の成長を実感させる機会を生徒に与える。定期的に自らの自己評価を行い、過去の自分との成長を比較したり、生徒同士または教員が生徒の成長したと思う部分を褒めるなども効果的な手段として挙げられる。
 
関係性の欲求を満たすためには、個人だけの作業ではなく、グループワークを取り入れて仲間と一緒に目的を達成する過程で絆を作る機会を入れることも考えられる。
 
また、外発的動機付けや内発的動機付けの表から読み取れるように、生徒に学びの目的を彼らにとって意味がある形で伝えることで『内在化』を促すことも可能である。
 
『なぜ』その科目を学ぶ必要があるのか?それらを学ぶことによってどのような価値が個人として得られるのか?それらを明確に提示することで無動機付けの状況から内発的動機付けの状態へと移動できる。
 
授業で行える取り組みについて言及してきたが、自らが決定することを学校の軸としている学校も存在する。その一つがサドベリー・スクール(Sudbury School )と呼ばれる教育モデルである。
 
サドベリー・スクールとは、アメリカのボストンにあるサドベリー・バレー・スクールに共感し同じ理念に基づいて運営している学校のことを指しており、これらを活用している学校では、学校のルールを生徒・先生・スタッフが民主的に決定し、そのルール内で自由に学べるというモデルである。
 
自分たちが学ぶ環境に対して自ら決定できるシステムになっているため、生徒は自由とそれに伴う責任を理解しながら自ら学ぶ環境を作ることができる。自己決定論での自律性の欲求を満たすシステムであり、民主的な方法を重んじるため別名デモクラティック・スクールと称されることもある。
 
自己決定論の要素を活用して、一つの授業や子どもとのやり取りに変化を起こすだけではなく、学校というシステムを新しい形で運営することも可能である。
 
今回噛み砕いた自己決定論の要素をぜひ活用し、モチベーションややる気を引き上げる仕組みに取り組んでいただければ幸いです。
 
参考:
Ryan, R. M., & Deci, E. L.(2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Phychologist, 55, 68-78.

櫻井茂男:自ら学ぶ意欲の心理学,有斐閣,東京,2009.

Sudbury Valley School https://sudburyvalley.org/

 
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  • やり抜く力を極めて、モチベーションをあげる3つの方法
  • モチベーションの維持:自らの成長の限界を外す方法
  • 今までImaginExとして行なってきた中高生向けのキャンプやワークショップ、また海外進学の指導に加え、Katsuiku Academyという名で新たな学校の設立にも取り組んでおります。

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